ロンドン市民を恐怖におとしいれた忌まわしいロケット兵器V-2は、基本的にはゴダードのロケットを大型化したものであった。V-2が新しい技術として採用したのは「慣性航法」、外部からの誘導なしで目標に飛行するための技術である。
航法は英語ではNavigationという。カーナビですっかり市民権を得た言葉である。その意味は、目的地に正確に到達できる技術を意味し、具体的には現在位置を地図で認識し、目標に向かうことである。次のような問題を考えてみよう。
「成田空港を出発した飛行機が太平洋上で不時着した。無人島にたどりついたが、その位置(緯度、経度)はどうしたら分かるか?」
GPSを使えばすぐだが、昔はそうはいかない。東大生に出題してもすぐに答えられるものは少ない。意外と難問である。緯度は比較的簡単で、夜、北極星を探し、その水平線からの角度を測れば分かる。角度をどうして知るか。腕を真っ直ぐにのばし、手のひらを横にする。指一本が約2度なので緯度が分かる。経度は難しい。実は時計が必要である。日本で合わせた時計によって、無人島の南中時刻を計る。日本の時間は東経135度の兵庫県明石市で太陽が南中するように決められている。地球は24時間で自転するので、経度が15度変化すると南中時刻が1時間ずれる。このことから明石からの経度が求められる。南中時刻は棒の影が一番短くなる時刻を計ればよい。
こうした星や太陽をもとに角度と時計で航法をおこなう方法を天測航法という。大航海時代の航法である。ナビゲーションの「ナビ」とはもともと「船」を意味している。スペインや大英帝国の列強が帆船で航海に乗り出したのには訳がある。航海で新しい土地を発見すると自国の領地にできたのであった。列強は航法を確かなものとするため天文学と数学の発達を促す。コペルニクス(1473-1543年)が地動説を発表し、チコ・ブラーエ(1546-1601年)の精密な天文観測をもとに、ケプラー(1571-1630年)が惑星運動の規則性を見出し、ガリレオ(1564-1642年)やニュートン(1642-1727年)によって力学および微積分学が出来上がっていく。航法のソフトが整備されていった。ハード的には精密に角度を測る六分儀(図2)が18世紀に発明され、時計も半月に1秒の誤差という超高精度なクロノメータが作られる。