紙飛行機をうまく飛ばす科学 (2) ――― 飛行機が飛ぶわけ鈴木 真二
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この記事は2001年7月31日に掲載された『紙飛行機をうまく飛ばす科学(1)――― 飛行機が飛ぶわけ』の続編です。以前の記事は筆者によるこれまでの記事の一覧をご覧ください。
紙を切り取り、貼り付けて機体を作るのがペーパークラフト飛行機(図1)である。二宮康明さんをはじめ多くの方が作品を公開してくださっているので、まずはそうした機体を作って飛ばすのが早道である。作り方も精密になり、飛ばすのも遊びというよりは立派な競技となっている。
手で投げるにせよ、ゴムのカタパルトを利用するにせよ、上空に投げ上げ、高度を取り、そのあとゆっくり旋回させて滞空飛行時間を競う。風に乗れば見えなくなるまで飛ぶこともある。ペーパークラフト飛行機も飛行の原理は本物の飛行機と同じである。前回の説明のように、重心と翼、特に尾翼の調整のツボを押さえておけば大体は飛ぶようになる。ただ、良く飛ぶ紙飛行機を分析してみると、本物の飛行機とは大きく異なる点がある。重心の位置である。 機体の重心は飛行機の命である。ジャンボジェットのような大きな機体でも、重心が定まった位置に収まるように燃料や乗客や荷物の配置を管理しバランスさせている。アメリカで小さなコミュータ機に乗ったとき、パイロットから座る位置を前方に移すように命じられたことがある。それほどパイロットは重心に気を配っている。その重心位置が紙飛行機と実機で大きな差がある。紙飛行機の重心は実機よりもかなり後方に位置する。なにか理由があるはずである。
ペーパークラフト飛行機はほとんどが主翼と尾翼を持つオーソドックスな形をしている。本物の飛行機とこの点は同じである。重心の役割を前回より、もう少し詳しく見てみよう。 説明を簡単にするために、主翼と尾翼が長方形平板の紙飛行機を考える。揚力は主翼、尾翼とも前縁から翼の4分の1にある。揚力は面積に比例するので、主翼の揚力は尾翼よりも大きくなる。それぞれの揚力が重心でバランスするように図2のように重心を決める。
ただし、図2のようなバランスは、前回話題とした「シーソー」タイプのバランスで、「やじろべえ」タイプではない。つまり、自然に元に戻る復元力がない。復元力を与えるには重心を前に移動させればよかった。図3のように主翼の揚力の位置に重心がある場合を考える。このとき、重力と主翼の揚力は同じ位置に作用するので、それだけでバランスが取れる。つまり、尾翼には揚力があってはいけないことになる。 尾翼の揚力を0にするにはどうしたらよいか、揚力は流れと翼の作る角(迎え角)に比例するから、尾翼の迎え角を0にすればよい。図3のように、尾翼を傾けて、取り付けるのである。このとき、尾翼の揚力は0であるが、機体の姿勢がくずれ、迎え角が変化した場合には、尾翼に揚力が発生する。尾翼の揚力は、機体の姿勢を釣り合い位置に戻す復元力として作用する。
以上のことを逆にたどれば、尾翼の角度を決めると、バランスの取れる主翼の迎え角が決まることになる。バランスが取れて飛んでいる場合は、揚力と重力は釣り合わねばならない。一方、揚力は迎え角に比例し、また速度の自乗に比例するという関係がある。迎え角は、バランスの取れる値が定まるので、釣り合って飛べる飛行速度も一つに決まってしまうことになる。 尾翼の角度を大きくすると、バランスする迎え角が大きくなり、飛行速度が小さくなる。逆に尾翼の角度を小さくすると、飛行速度が大きくなる。つまり、尾翼の角度を変えることで速く飛行させたり、遅く飛行させたりすることができる。本物の飛行機は尾翼の後方の昇降舵(エレベータ)を操作することで飛行速度をコントロールしている。 また、紙飛行機のような滑空機の場合は、尾翼の角度は機体の経路角も支配する。すこし込み入ってくるが、もう少しお付き合い願いたい。 滑空中の機体の力のバランスは図4のようになる。水平線から降下してゆく角度は、揚力と抵抗の比(揚抗比)によって決まる。揚抗比を大きくすれば浅い角度で滑空できるので、遠くまで飛行できることになる。
グライダーが細長い翼を持つのは揚抗比を大きくしたいからだ。同一の機体では揚抗比は迎え角によっても変化する。飛行速度が大きくなると迎え角は小さくてすむので、抵抗に対して揚力は小さくなり揚抗比は小さくなる。逆に、飛行速度が小さくなると、大きな迎え角が要求され、揚力も増えるが、それ以上に抵抗が急激に増加し、揚抗比はやはり減少してゆく。揚抗比が最大になり、最も遠くまで飛べる速度と、迎え角がどこかに存在する。 紙飛行機では、試験飛行のときに尾翼の角度を変えて飛び方を調整する。実はこれは、最適な条件を捜しているのである。
本物の飛行機の重心位置は、多少の幅はあるが、図3のように主翼の前縁の4分の1あたりにある。また、実際の機体では、主翼の断面は上に反った翼型をしている。こうした翼には頭を常に下げようとするモーメントが作用するので、尾翼はさらに傾きを増さねばならない。その結果、多くの飛行状態では尾翼は下向きの揚力を作って飛んでいることになる。ジャンボジェットの尾翼は上下逆さの翼型を採用している。つまり下に反った翼型で下向きに揚力を作っているのである。 このように、本物の機体は主翼の揚力を犠牲にしてまでも、機体のバランスと安定性の確保に務めている。 以上が、本物の飛行機の重心位置なのであるが、紙飛行機の重心位置を調べると、ほとんど主翼の後縁近くにある。本物の飛行機では想像もつかない位置である。 紙飛行機の重心が後方に位置する一つの原因は、尾翼に揚力を持たせようとするものである。図2まではいかなくとも尾翼も揚力を負担できれば、主翼の揚力は小さくてすむ。その結果、機体も軽くなり、抵抗も小さくなる。問題は安定性が減少し、本物の飛行機であれば操縦が難しくなることである。しかし、紙飛行機である。墜落も気にしない。 もう一つは、機体の投げ方に関係している。滞空時間をかせぐには、できる限り高く投げ上げることが秘訣である。投げ上げる時の飛行速度は、滑空時の釣り合い飛行速度よりもはるかに速い。つまり、機体のバランスは取れていないことになる。 投げ出した直後は飛行速度が大きく、釣り合い飛行状態に近づくために迎角を大きくしようとする。つまり、機体は次第に頭を上げる。重心が前にあり安定性の強い機体はこの傾向が強いので、図5の左のように機体は急な宙返りをする。つまり、最高高度を上げることができない。重心が後ろであれば、安定性は小さくなるが、頭を上げる力が小さいので、図5右のように機体は高くまで上昇できる。この図は研究室の大学院生、森田純一郎君がコンピュータシミュレーションによって計算してくれたものである。
図5の右は、コンピュータで最適な飛ばし方を計算したものである。しかし競技では、風を読み、機体の「くせ」を頭に入れて瞬時に飛ばし方を決めなくてはならない。コンピュータでもかなわない職人芸である。
尾翼はなにも、その名のように尾部になければならないわけではない。ライト兄弟が最初に動力飛行をおこなった1903年フライヤー号は、前方に水平舵があった。前にある尾翼(?)は、アヒルの「くちばし」のようだというのでカナードと呼ばれる。実は、カナード形態にすると、安定性を確保しつつ、カナードに揚力を持たせることができる。もっとも、フライヤー号は別な理由でカナードを採用し、機体自体には安定性がなかった。自転車のように常にバランスを取りながら飛行した。 カナード機はいろいろと作られてきているがフライヤー号に匹敵する偉大な機体は1986年に無給油無着陸で世界一周飛行を成し遂げたボイジャー(図6)であろう。軽量化と効率アップを極限まで突き詰めた形である。
飛行機の形は千差万別である。水平尾翼を無くてしまった機体も存在する。厳密には尾翼が無いというよりも、主翼を後退させて、翼の先端部分に尾翼の役割を持たせている。これもいろいろな機体があるが、図7はNASAで計画されているブレンディッド・ウィング・ボディー機である。800人乗りの超大型旅客機をめざし、翼の中を2階の客室にするつもりであるという。
いろいろな形がありえても、主翼と尾翼の配置が一般的であるのはそれなりの理由があるからだ。しかしペーパークラフト飛行機ならば自由に形を変えて飛ばすことができる。いろんな形をとばして、どんな飛び方をするのかを探ってみるのも紙飛行機の楽しみである。(次回に続く)
●参考資料
プロフィール
鈴木 真二(すずき しんじ) 1953 年岐阜県生まれ。1979 年東京大学工学部航空学科修士課程修了。
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